#95:隠れ里(六)

 そして、里の広場にテルプシコルが戻ってきたとき、残った三人は無言で地面に座り込んでいた。
 力なく座り込む三人の背後に見える惨状に、テンションを高めて戻ってきたテルプシコルの気持ちも萎えそうになる。
 だが、テルプシコルはしっかりと目を見開き、口を真一文字に引き締めると
「いつまでもこのままではあまりに不憫だ」
 と、力のこもった口調で言った。
「せめて、我々の手で葬ってやろうではないか」
 そのテルプシコルの力のこもった声を聞いて。
 パァン!
 威勢良く音を響かせ、両の膝を叩いたマックが一挙動で立ち上がる。
「テル吉の言う通りだ。いつまでも座ってたって始まらねェやな」
 と、何かを吹っ切った様な口調で言ったマックはグローブをギュッとはめ直した。
「俺ァ、穴を掘る。ジン、手伝え!」
「わかったよ、マック」
 いつの間にか、立ち上がってマックの横にいたジンもマックに倣ってグローブをはめ直した。
 そして、テルプシコルは地面にしゃがみ込んでうつむいたままのメイミィの前に座ると、顔をのぞき込むようにして柔らかい笑顔で微笑みかけた。
「さあ……わたしたちは亡きがらを綺麗にしよう」
 自分よりも幼く見えるテルプシコルの言葉を、そして自愛に満ちた表情をしばし呆然と見つめた後で、メイミィはすうっと息を吸い泣きはらした目をこする。
 そして、すっくと勢いよく立ち上がり
「うん!」
 と、それは力強く頷いたのだった。

 動き出したら早かった。
 ジンとマックは民家の納戸から調達したスコップで穴を掘る——特にマックはブルドーザーもかくやと言う勢いで掘りまくった。
 テルプシコルとメイミィは、乱雑に積み重ねられた死体を並べなおす。
 血で汚れた顔を拭き、服装を整えた。二人とも幾度となく泣きそうになったが、グッとこらえた。
「あ、同じ柄の服を着てるよ」
「ならば、この子の母親はこの娘だな」
 などと、できる限り縁者が一緒に弔えるように、埋葬の準備を整えていた。
 そして、準備を終えて。
 死体を丁寧に穴の底に並べ、マックとジンが土をかけて里の全員を大地に還す。
 そして、花を供えた墓所に。テルプシコルは祈りを捧げた。

「お主らの無念、必ずや晴らさん。
 愚かなる帝国の奴ばらは、しかるべき報いを受ける日が来る。
 だから……今は安らかに眠るがよい」

 殺された里の住人、若い男はわずか数人で。それ以外は老人が数名、女子供が赤子も含めて十数名。さらに、武器を持っているものは皆無。
 攻め入った帝国の軍勢と、戦闘になどなりようも無いことが改めて分かった。
 おそらくは命乞いをしたであろう里人を皆殺しにしたと言うことも……
(……許せない!)
 さあっと、里に霧雨が降り出した。
 隠れ里の無念の涙雨が、墓所に供えられた色とりどりの花々を静かに濡らしたのだった。

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